第1話 プロローグ

 コンポジット・ドライバーというものをご存知だろうか。
 ゴルファーの方なら直ぐにピンとくるかもしれないが、複合素材からなるクラブヘッドを装着したドライバーのことだそうだ。
 一般的には金属製ヘッドのクラウン部だけをカーボンなどの樹脂素材にしたウッド系のヘッドで、重心が下がって球が上がりやすくなり、アベレージゴルファーにはありがたい代物らしい。
 ちなみにクラウン部というのは、クラブを構えたときに正面に見えるヘッドの真上の部分、いわばゴルフクラブの顔にあたる部分である(図1中、符号21で示されている部分)。

 

 筆者はゴルフ歴25年になるが、最近までコンポジット・ドライバーなるものの存在を知らなかった。それもそのはずで、複合素材であることは美しく塗られた塗料によって巧妙に秘匿(?)され、外観上は普通のドライバーとまったく見分けがつかないのだというから、用具の進化についてゆけない旧人類ゴルファーには知る由もないのだ。
 だから「中空ゴルフクラブヘッド事件」が世の中を騒がせたときも、そのタイトルだけを見て、パーシモンから金属材料に移行して以来、ウッド系のクラブヘッドはそもそも内部が中空、つまりは空洞なんじゃないのか、程度の認識しか持ち得なかった。
 後になって金属製ヘッドのクラウン部に樹脂素材を組み合わせたゴルフクラブに関する事件であることを知っても、それがコンポジット・ドライバーとして世の中に広く普及している商品に関係するものであるとは、想像すらできなかったのである。

 

 ところでコンポジット・ドライバーを話の種にしているのは、何もゴルフ談義に花を咲かせようとしているからではない。
 先日面白い講習会に参加したからだ。
 弁理士が所属する弁理士会という団体が主催する「中空ゴルフクラブヘッド事件を通して、弁理士の特許実務を考える」と題された講習会である。研究活動に熱心な弁理士の保科敏夫氏を講師に迎え、白熱した議論が展開された。
 中空ゴルフクラブヘッド事件では出願、審査、権利活用の各段階において特許実務上の課題を見出すことができるという認識のもと、それらの課題をヒントに一連の流れの中で特許実務を今一度見直してみよう、という事件の当事者がいたら針の筵に座らされているのかと思うに違いない少し意地悪な内容の講習会ではあった。
 それでも説得力がある有意義な講習会だったので、あえてここで紹介しようと思う。
 まずは中空ゴルフクラブヘッド事件の概要についておさらいしてみよう。