(4)判決
(a)概要
前述したとおり、(a)~(e)として示したPRGR特許の上記構成要件中、ヨネックスの七つの製品が(a)(b)(c)(e)を具備することについては、当事者間に争いがない。
また文言上は、ヨネックスの製品が(d)の構成要件を具備しないことも明らかとされた。
問題となったのは、(d)の構成要件に均等論が適用されるか否かである。
結論から先に言うと、地裁判決では均等論の適用が否定され、ヨネックスの製品群はPRGR特許に抵触しないとされた。
これに対して控訴審である高裁判決では均等論の適用が肯定され、ヨネックスの製品群はPRGR特許に抵触するとされた。横浜ゴムの逆転勝訴を導く判断がなされたわけである。
(b)ヨネックスの製品群
図4及び図5に示すように、ヨネックスの七つの製品は、金属製の外殻部材(1)の上面フランジ部(5)に、FRP製の上下外殻部材(9,10)を固定したものである。
図6は図5におけるⅢ-Ⅲ断面図である。
図6中の符号7に注目していただきたい。この符号7は、金属製の外殻部材(1)の上面フランジ部(5)のうち、フェース面部(2)に隣接する前方フランジ部(5a)に形成された円形透孔である。
この円形透孔(7)には符号8の部材が貫通している。この部材は炭素繊維からなる帯片で、FRP製の下部外殻部材(9)と上部外殻部材(10)とを斜交いに接着してつないでいる。
図7は図5におけるⅣ-Ⅳ断面図である。
FRP製の上下外殻部材(9,10)は、その一端側で二つに枝分かれしている。下部外殻部材(9)と上部外殻部材(10)である。
枝分かれした外殻部材(9,10)は、金属製の外殻部材(1)の前方フランジ部(5a)を挟み込み、この前方フランジ部(5a)に接着固定されている。
したがって金属製の外殻部材(1)に対して、上下の外殻部材(9、10)は接着によって固定されているばかりか、帯片(8)による連結によっても固定された状態となる。
以上概略を説明したヨネックスの製品群の構成要素とPRGR特許の構成要素との対応関係を整理すると、次のようになる。符合「P」はPRGR特許、「Y」はヨネックスの製品群である。
P「金属製外殻部材(11)」:Y「金属製の外殻部材(1)」
P「繊維強化プラスチック製外殻部材(21)」:Y「FRP製の外殻部材(9,10)」
P「貫通穴(13)」:Y「円形透孔(7)」
P「縫合材(22)」:Y「帯片(8)」
(c)技術的範囲の属否-文言侵害
前述したとおり、PRGR特許の構成要件中、ヨネックスの製品群が上記(a)(b)(c)(e)を具備することについては争いがない。
争点となったのは上記(d)である。改めて(d)を三つに文節して示す。
(d1)(前記金属製の外殻部材の接合部に設けた)該貫通穴(13)を介して
(d2)繊維強化プラスチック製の縫合材(22)を前記金属製外殻部材(11)の前記繊維強化プラスチック製外殻部材(21)との接着界面側とその反対面側とに通して
(d3)前記繊維強化プラスチック製の外殻部材(21)と前記金属製の外殻部材(11)とを結合した
これらの各要素のうち、ヨネックスの製品群が(d1)(d3)に該当することは論を待たないだろう。
問題は(d2)だ。
この(d2)にヨネックスの製品群を当て嵌めると、「炭素繊維からなる帯片(8)を金属製の外殻部材(1)のFRP製の外殻部材(9又は10のいずれか一方)との接着界面側とその反対側(つまりFRP製の外殻部材(9又は10のいずれか他方)との接着界面側)とに通して」と解することができる。
どうだろうか?
文言上、ヨネックスの製品群は(d2)にも該当するのではないだろうか?
しかしながら前述したとおり、PRGR特許は二つの欠落を持っている。あるいは欠落という言葉が妥当でないとしたら、特許請求の範囲、とりわけ上記構成要件(d)に明記されていない隠された構成と言い直してもよい。
これらの隠された構成は、先に(dx)(dy)として示したもので、
(dx)繊維強化プラスチック製の外殻部材(21)と縫合材(22)とは接着されている
(dy)貫通穴(13)は少なくとも二個以上設けられ、縫合材(22)は貫通穴(13)に少なくとも二度通され、金属製の外殻部材(11)における繊維強化プラスチック製の外殻部材(21)の接着面界面側と反対面側においてつながった形態を維持している
という内容だ。
PRGR特許の構成要件(d)が(d1)(d2)(d3)(dx)(dy)からなるとして、ヨネックスの七つの製品が(d1)(d2)(d3)(dx)に該当することは論を待たないだろう。この点については、地裁高裁の裁判においてヨネックスにも争いがない。
問題は(dy)である。
ヨネックスの製品群は、金属製の外殻部材(1)の両面にFRP製の外殻部材(9,10)が配置されているのだから、帯片(8)を円形透孔(7)に一回通すだけで、FRP製の外殻部材(9,10)と金属製の外殻部材(1)とを結合することができる。
このため構成要件(dy)に該当しないのだ。
したがって地裁でも高裁でも、ヨネックスの製品群は上記構成要件(d)の点で相違するとして、文言侵害の成立を否定した。
(d)技術的範囲の属否-均等侵害
高裁は、
争点(1):構成要件(d)の充足性
争点(2):均等侵害の成否
争点(3):進歩性欠如の有無
について判断している。
争点(1)では上記構成要件(dy)の相違点を導き出して文言上の侵害は成立しないとし、争点(2)では上記構成要件(dy)の相違点について均等論適用の五要件、つまり、
1.置換可能性
2.置換容易性
3.非本質的な部分か否か
4.対象製品の容易推考性
5.意識的除外
を個々に検討している。
その結果ヨネックスの七つの製品はPRGR特許の均等侵害を構成すると判断し、地裁判決を覆したのである。