第4話 特許権侵害

 元々の話は特許権侵害だった。

「特許の読み解き方はなんとなくわかった。ではどうなると特許権侵害になるの?」

 最後にこの話をする。

 

 どうなると特許権侵害になるのか?

 先ほど特許請求の範囲を作ってみた椅子の発明を例に挙げ、他人が似た感じの椅子を作った場合を考えてみよう。

 実を言うと、話は簡単である。

 やることは二つだけだ。

 

 最初に、似た感じの椅子(現物)と特許請求の範囲で定義した発明(概念)とを比較し、一致不一致を探す。

 つまり他人が作った椅子(現物)が、

 ――「人の臀部を載せる座面を有する座部」を有しているか?

 ――「 床面に設置され、上方に延びる部分が前記座部と連結して前記座面を予め決められた高さに位置づける脚部」を有しているか?

 ――「発熱する発熱体を有し、この発熱体を前記座部に腰かけた人の仙骨が当たる位置に配置する保温部」を有しているか?

 ――「前記座面の先端側よりも前記発熱体が配置される側を低く位置付ける手段」を有しているか?

を見るのだ。

 幼稚園児などの小さな子供たちが二枚の絵を並べてやる「間違い探し」と同じ要領である。

 

 そして二つ目。

 間違い探しの結果、全部一致したかどうか、つまり他人の作った椅子が特許請求の範囲の全ての構成要件と一致したかどうかを見る。全部一致すれば特許権侵害、全部一致しなければ侵害ではない。それだけである。

 

「でも特許訴訟って、もっと複雑で難しいんじゃないの? 世界でも有数の大企業同士が争っているみたいだし、優秀な裁判官が雁首揃えて眉間に皴を寄せている様子だけど……?」

 そんな声が聞こえてきそうだ。

 だがそれほど複雑なものではない。

 ――全部は一致しないけど、侵害とすべきなのではないか?

 ――よく見ると少し違ってるようだが、これで特許をすり抜けようとするのは、いかにもずる賢いぜ。お天道様に顔向けできねぇだろうが!

 ――言葉の上では一致しているようだけど、侵害とするのはちょっと変だわ!

 et cetera、エトセトラ……。

 複雑なのはこんな話だ。

 ちなみにこの三つの話、上から順に、

 ――間接侵害の議論(Contributory infringement)

 ――均等論の議論(Doctorine of equivalents)

 ――禁反言の議論(File wrapper estopel)

という。

 

 要は並べた二枚の絵のうち、一方の形が微妙に歪んでいたり、発色具合が多少違っていたりという類の話なのだ。

 基本はあくまで「間違い探し」なのである。