第4話 申立ての要件

1.主体的要件

(1)申立人適格

「何人も」申し立てることができる(第113条第1項柱書)。
 法人でない社団又は財団であって代表者の定めがあるものも、特許異議の申立てが可能である(第6条第1項)。

(2)共同審判の規定の不適用

 注意を要するのは、共同審判の規定(第132条)が準用されていないことである(第120条の8)。
 このため、

  • 二人以上の共同申立ての可否(第132条第1項相当)
  • 特許権が共有に係る場合の被申立人(第132条第2項相当)
  • 一人についての中断又は中止の効力(第132条第4項相当)

について疑問が生ずる。
 この点、共同申立て(第132条第1項相当)の可否は不明である。
 また参加制度は設けられているが、これは特許権者を補助するための補助参加のみとなっている(第119条第1項)。したがって同一の特許権について特許異議の申立てをしようとする者が二人以上あるとき、共同申立てが許されないのであれば、別個の申立てをする他はない。
 ところで特許法施行規則(案)では、「第八章 特許異議の申立て」の章が新設され、第45条の2~6の規定を設けている。そして特許法施行規則(案)第45条の2は、特許異議申立書は、様式第61の2により作成すべしと規定する。これもまだ案の段階だが、様式第61の2を参照すると、「代理人」の欄に記載すべき者が二人以上あるときを定めているのに対して、「特許異議申立人」の欄に記載すべき者が二人以上あるときについては定めていない。ここから類推すると、共同申立てはできないものと解される。
 つぎに特許権が共有に係る場合の被申立人についてであるが(第132条第2項相当)、特許異議申立書には、そもそも被申立人を特定する欄がない(第115条第1項)。この点は無効審判と相違するところである(第131条第1項第1号)。そうすると誰が当事者なのかという問題が残るが、共有者全員が当事者になるものと解される。共有者の一人に中断又は中止原因があるときは、共有者全員にその効力を生ずる旨規定されているからである(第118条第2項)。


2.客体的要件

(1)申立理由

 第113条第1項第1号~第5号に限定列挙されている。
 異議理由は公益的事由のみである。
 この点、権利の帰属に関する事由(第123条第1項第6号)や、後発的事由(同条第1項第7号、8号)までをも無効理由とする無効審判制度と異なる。
 この辺りに、両制度の色合いの違いが鮮明に表れている。無効審判制度は紛争が発生した場合の攻撃策という私益的色合いが強いのに対して、特許異議申立制度は瑕疵ある特許の是正という公益的色合いが強い制度なのである。
 異議理由は次の通り(第113条第1項各号)。 

  1. その特許が第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願(外国語書面出願を除く。)に対してされたこと
  2. その特許が第25条、第29条、第29条の2、第32条又は第39条第1項から第4項までの規定に違反してされたこと
  3. その特許が条約に違反してされたこと
  4. その特許が第36条第4項第1号又は第6項(第4号を除く。)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたこと
  5. 外国語特許出願に係る特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないこと 

(2)申立ての単位

 二以上の請求項についてした特許異議の申立ては、請求項ごとに取り下げることができる(第120条の4第2項で準用する第155条第3項)。
 ただし、取り消し理由通知後は(第120条の5第1項)、特許異議の申立ての取下げ自体ができなくなる(第120条4第1項)。


3.時期的要件

(1)申立て期間

 特許異議の申立て期間は、特許掲載公報の発行の日から6月以内である(第113条第1項柱書)。
 この「特許掲載公報」は、特許権の設定の登録(第66条第2項)があったときに、第66条第3項の規定により同号各号に掲げる事項を掲載した特許公報を意味する(第29条の2)。特許公報は何種類かあるので、注意を要する。

(b)特許異議申立書の補正
 上記期間内であれば、申立の理由及び必要な証拠の追加・変更(要旨を変更する補正)が可能である(第115条第2項)。
 ただし、取り消し理由通知(第120条の5第1項)があった後は、そのような要旨を変更する補正はできなくなる(第115条第2項)。この点は、旧・特許異議申立制度と相違する点なので、注意を要する。旧・特許異議申立制度では、特許掲載公報の発行の日から6月以内であれば、いつでも「申立の理由及び必要な証拠の表示」についてする補正(要旨を変更する補正)が可能であった(平成6年特許法第115条2項)。

(2)特許異議申立書の補正

 上記期間内であれば、申立の理由及び必要な証拠の追加・変更(要旨を変更する補正)が可能である(第115条第2項)。
 ただし、取り消し理由通知(第120条の5第1項)があった後は、そのような要旨を変更する補正はできなくなる(第115条第2項)。この点は、旧・特許異議申立制度と相違する点なので、注意を要する。旧・特許異議申立制度では、特許掲載公報の発行の日から6月以内であれば、いつでも「申立の理由及び必要な証拠の表示」についてする補正(要旨を変更する補正)が可能であった(平成6年特許法第115条2項)。

(3)申立ての取下げ

 二以上の請求項についてした特許異議の申立ては、請求項ごとに取り下げることができる(第120条の4第2項で準用する第155条第3項)。
 ただし、取り消し理由通知後は(第120条の5第1項)、特許異議の申立ての取下げ自体ができなくなる(第120条4第1項)。

4.手続的要件

(1)申立て手続

 特許異議申立書を特許庁長官に提出する(第115条第1項柱書)。
 特許異議申立書には、
1号 特許異議申立人及び代理人の氏名又は名称及び住所又は居所
2号 特許異議の申立てに係る特許の表示
3号 特許異議の申立ての理由及び必要な証拠の表示
を記載する(第115条第1項各号)。

(2)特許異議申立書の補正

 特許異議申立書の補正については、「(3)時期的要件」で説明した通りである(第115条第2項)。
 補足すると、補正をすることができるのは第115条第1項第3号の「特許異議の申立ての理由及び必要な証拠の表示」だけである。同条2号の「特許異議の申立てに係る特許の表示」の補正はできない。したがって異議を唱える特許、つまり申立の対象それ自体の変更は許されない。

(3)手数料

 特許異議の申立てに要する費用は、16,500円に1請求項につき2,400円を加えた金額である(195条2項別表11)。
 無効審判は、49,500円に1請求項につき5,500円を加えた金額なので、比較するとだいぶ低廉である。
 参加に関しては、特許異議の申立てが11,000円、対する無効審判の16,500円となっている。