第7話 申立ての審理(審理手続)

2.審理手続

(1)特許権者に与えられる意見書提出の機会

 審判長は、取消決定をしようとするときは、特許権者及び参加人に対し、特許の取り消しの理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない(第120条の5第1項)。
 国民に不利な取り扱いをしようとする場合、公権力に要請されるデュー・プロセスである。
 特許権者は、意見書の提出に際して、明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正請求が可能である(第120条の5第2項)。

(2)訂正請求

(a)趣旨

 特許後における明細書等の訂正は、訂正審判(第126条)によることが原則である。
 しかしながら特許異議の申立てと別個に訂正審判が請求されるとなると、その審決が確定するまで特許異議の申立ての審理を行えなくなってしまう。
 そこで特許異議の申立てが特許庁に係属したときからその決定が確定するまでの間は、訂正審判の請求をすることができないようにし(第126条第1項)、明細書等の訂正は訂正請求によることした(第120条の5第2項)。

(b)請求できる者

 訂正請求をすることができるのは、特許権者である(第120条の5第2項)。

(c)請求の対象と目的

 訂正請求をすることができるのは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面である(第120条5第2項)。
 次に掲げる事項を目的とするものに限られる(第120条の5第2項各号)。

  1. 特許請求の範囲の減縮
  2. 誤記又は誤訳の訂正
  3. 明瞭でない記載の釈明
  4. 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。                 ※請求項の引用関係を解消させる訂正

 (イ)請求ごとに特許異議が申立てられた場合

 請求項ごとに訂正が可能である。
 特許異議の申立てが請求項ごとにされた場合には、その請求項ごとに訂正をしなければならない(第120条の5第3項)。

 (ロ)一群の請求項

 一群の請求項、つまり引用関係に立つ請求項の場合、一群の請求項ごとに訂正をしなければならない(第120条の5第4項)。
「一群の請求項」は、平成23年改正で導入された概念である。
 引用関係に立つ請求項がバラバラに訂正されると請求項ごとに確定審決のずれが発生し、特許請求の範囲の権利状況が錯綜する(特許請求の範囲の一覧性の欠如)。これの防止を図るために、一群の請求項ごとの訂正を要求することにしたわけである。

 (ハ)訂正する明細書等と関係するすべての請求項

 請求項ごとに訂正を請求する場合であって、明細書又は図面の訂正が複数の請求項に係る発明と関係する場合、その関係する請求項のすべてについて請求をしなければならない(第120条5第9項で準用する第126条第4項)。
 明細書又は図面の訂正に関係する一部の請求項だけ訂正が認められると、明細書の一覧性の欠如(明細書の束の発生)の問題が発生するので、これを防止するためである。

 (ニ)明細書等の範囲内

 訂正は、出願当初の明細書等の範囲内においてしなければならない(第120条5第9項で準用する第126条第5項)。

 (ホ)実質拡張変更の禁止

 訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない(第120条5第9項で準用する第126条第6項)。

 (ヘ)独立特許要件

 特許異議の申立てがされていない請求項に係る第126条第1項第1号及び第2号(第120条の5第9項で準用)の訂正は、訂正後の特許請求の範囲によって特定される発明が、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものでなければならない(第120条5第9項で準用する第126条第7項)。

(d)請求期間

 訂正請求ができるのは、意見書を提出するための指定期間内である(第120条の5第2項)。
 意見書提出のための指定期間(第120条の5第1項の取消理由通知での指定期間、第120条の5第6項の訂正不適法通知での指定期間)であれば、訂正明細書等の補正が可能である(第17条の5)。
 意見書提出のための指定期間(第120条の5第1項の取消理由通知での指定期間)であれば、何度でも訂正請求をすることができ、この場合、先の請求は取り下げ擬制される(第120条5第7項)。
 なお訂正明細書等について補正をすることができる上記期間(第17条の5)であれば、訂正の請求は取り下げることができる(第120条の5第8項)。
 ただし、訂正請求をした請求項の一部の取り下げはできない(第120条の5第8項)。

(e)請求手続

 請求の趣旨及びその理由などを記載した請求書を特許庁長官に提出し、訂正書類を添付する(第120条の5第9項で準用する第131条第1項、第3項及び第4項)。

 請求書については、請求の理由など以外について、要旨を変更する補正が禁止される(第120条の5第9項で準用する第131条の2第1項)。
 特許権が共有に係るときは、共有者全員で請求しなければならず、一人の中断又は中止原因は、全員にその効力が生ずる(第120条の5第9項で準用する第132条第3項及び第4項)。
 請求書に方式違反がある場合、審判長は補正を命じ、応じない場合(又は許容されない要旨変更補正の場合)には決定をもって却下することができる(第120条の5第9項で準用する第133条第1項、第3項及び第4項)。

(f)手数料

 訂正請求に要する費用は、無効審判での訂正請求と同額の49,500円に1請求項につき5,500円を加えた金額である(195条2項別表13)。

(g)訂正請求の審理手続

 (イ)特許異議申立人に与えられる意見書提出の機会

 審判長は、訂正請求があったときは、取消理由通知、訂正請求書、及びその添付書類の副本を特許異議申立人に送付し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならない(第120条の5第5項)。
 ただし、これには例外がある。
 特許異議申立人から意見書提出を希望しない旨の申出がある場合、又は意見書提出の機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるときは、この限りでない(第120条の5第5項ただし書き)。

 (ロ)特許権者に与えられる意見書提出の機会

 審判長は、訂正請求が

  • 目的外訂正(第120条の5第2項各号違反)
  • 明細書等の範囲外訂正(第120条5第9項で準用する第126条第5項違反)
  • 実質拡張変更訂正(第120条5第9項で準用する第126条第6項違反)
  • 独立特許要件違反(第120条5第9項で準用する第126条第7項違反)

である場合、特許権者及び参加人にその理由を通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならない(120条の5第6項)。

 (ハ)適法な訂正

 訂正が適法であった場合、訂正請求そのものについて特段の行政処分はなされない。
 訂正請求書に添付された訂正明細書等に基づいて特許異議の申立ての審理が行なわれるだけである。