1.決定の方式
特許異議の申立てについての決定は、「決定に係る特許の表示」「決定の結論及び理由」の他、書誌的事項を記載した文書をもって行なわれる(第120条の6第1項)。
審理を併合した場合には(第120条の3第1項)、無効審判の場合と同様に、一の決定のみがなされるはずである(審判便覧45-03を参照)。
特許庁長官は、決定があったときは、
に、決定の謄本を送達しなければならない(第120条の6第2項)。
2.決定の確定範囲
決定は、特許異議申立て事件ごとに確定する(第120条の7)。
平成23年改正で導入された審判における167条の2の規定と同趣旨の規定である。これは知財高裁裁判例で示された、請求項ごとに請求された審判の審決は請求項ごとに確定するとの解釈を明文化したものである。
つまり特許異議の申立てがあった場合、行政処分である決定は申立て事件ごとに確定し(第120条の7第1項柱書)、請求項ごとに申し立てがあった場合には請求項ごとに確定するわけである(同条同項第2号)。そして「一群の請求項」ごとの訂正請求があった場合、その「一群の請求項」ごとに決定が確定することを明らかにしている(同条同項第1号)。
3.決定の内容
(1)取消決定
審判官は、特許異議の申立てに係る特許が第113条各号のいずれかに該当すると認めるとき(異議理由を含んでいるとき)は、その特許を取り消すべき旨の決定(取消決定)をしなければならない(第114条第2項)。
取消決定については訴えを提起することができ、この場合の裁判管轄は東京高等裁判所(知的財産高等裁判所)となる(第178条第1項)。
取消決定が確定すると、その特許権は、初めから存在しなかったものとみなされる(第114条第3項)。
ところで特許異議申立制度では、審判における「審決の予告」の制度(第164条の2)に相当する「決定の予告」の制度が設けられていない。
審決の予告の制度は、平成23年改正により、特許無効審判が特許庁に係属した時からその審決が確定するまでの間、訂正審判の請求が禁止されたことに伴い、導入された制度である。
つまり従前は、特許無効審判で無効審決がなされた場合、特許権者はその確定を遮断するために審決取消訴訟を提起し、その一方で、無効理由回避のために訂正審判を請求することができた。この場合、訂正審決が確定すると、無効審判の審決は自動的に取り消され、特許庁においては無効審判の審決を再開して再度審決を行っていた(平成5年改正特許法第181条第2項)。この審決に対しては、言うまでもなく審決取消訴訟の提起が可能である。
これが裁判所と特許庁との間のいわゆるキャッチボール現象と呼ばれる現象で、審理の遅延や無駄の問題を発生させていた。
このようなことから、平成23年改正により、特許無効審判が特許庁に係属した時からその審決が確定するまでの間、訂正審判の請求を禁止することとし(第126条)、キャッチボール現象の発生を封じ込めるようにしたわけである。
ただそうなると、特許権者の側では、それまで確保されていた訂正の機会が失われることになってしまう。この場合の訂正は、無効審判での判断を踏まえて行うことができていたものであることから、それが認められなくなるというのは、発明保護の観点から妥当性に欠くと考えられる。
そこで、無効審決がなされようとする場合、無効審判手続の中で特許権者にもう一度訂正の機会を与え、従前有していた訂正審判による訂正の利益を確保するように制度設計したのである。これが審決の予告の制度である。
特許異議申立制度でも、特許異議の申立てが特許庁に係属した時からその決定が確定するまでの間、訂正審判の請求が禁止されることになった(第126条)。無効審判制度と同様に、キャッチボール現象の発生を封じ込めるためである。
ところが――特許異議申立制度では、「審決の予告」に相当する「決定の予告」の制度が設けられない。
したがって特許権者は、意見書提出の指定期間内において訂正請求の機会が与えられた後は(第120条の5第2項)、訂正明細書等について補正の機会が与えられることはあるものの(第17条の5)、もはや訂正を行うことができない。
→本稿の執筆時(平成27年2月)には上記の通りであったが、その後、特許異議の申立て制度にも、運用により、決定の予告制度が導入された(審判便覧67-05.5)。
つまり特許を取り消すべきと判断された場合、運用により、取消理由通知(決定の予告)が行われ、訂正の機会が与えられる。取決理由通知(決定の予告)には「決定の予告」である旨が明示され、特許権者は、指定期間(標準60日、在外者90日)内に、意見書の提出及び訂正の請求を行うことができるのである(特許法120条の5 第1項、第2項)。
(2)維持決定
審判官は、特許異議の申立てに係る特許が第113条各号のいずれかに該当すると認めないとき(異議理由を含んでいないとき)は、その特許を維持すべき旨の決定、つまり維持決定をしなければならない(第114条第4項)。
維持決定に対しては、不服を申立てることができない(第114条第5項)。
しかしながら特許異議申立制度では、審判における一事不再理の規定(第167条)に相当する規定が設けられておらず、準用もされていない。したがって特許異議申立人は、同一の事実及び同一の証拠に基づいて、無効審判を請求することができる。
この点は、「1.制度創設の経緯(1)平成15年改正法-無効審判制度への吸収統合-」で紹介した(ニ)の問題を再確認する必要があろう。平成15年改正で特許異議申立制度が無効審判制度に吸収統合される原因となった「異議申立ての結果に不満があると無効審判が請求され、紛争の解決が長期化する」という問題である。
この問題を解決するためには、特許異議申立ての維持決定に一事不再理効を与えればよいわけであるが、平成26年改正では見送られている。
(3)その他の決定等
その他、「B.申立の効果(3)方式等のチェック」で記載したとおり、次のような決定等がある。
1.は出訴可能であるが(第178条第1項)、2.は不服申し立ての途がない。
3.は「不服を申し立てることができない」と規定されている(第120条の8第2項、第114条第6項)。
4.特許公報への掲載
特許異議の申立てについての確定した決定は、広く一般に周知させるために、特許公報に掲載される(第193条第1項第7号)。
(了)
平成27年2月