発明や意匠などの知的財産を保護するために、どのような活動をすればよいのかを、時系列に沿って説明します。

 

 

  

 

 

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 知的財産保護活動

 ――事業の保護に役立つ権利を生み出し維持することで、差別化を確保する。

 

 知的財産保護活動の目的です。

 この目的を達成するためには、時間の流れを念頭におき、その時どきにおいて何をなすべきかを考えなければなりません。

 この場合の「時間の流れ」は二種類あります。

 一つは知的財産の保護という面から見た流れ(「知的創造サイクル」)、

 もう一つは事業の保護という面から見た流れ(「事業の流れに沿った知的財産保護活動」)です。

 上記目的を達成するためには、二種類の時間の流れをうまく同期させ、その時どきにおいてなすべきこと、つまり個々の知的財産保護メニューをこなしていくことが大切でなのす。

 知的創造サイクルの各段階ごとに行うべき業務を下表にまとめました。

 御社の事業の流れとマッチングさせ、事業の保護の一助にして頂ければ幸いです。

 

知的創造サイクル

事業の流れに沿った知的財産保護活動


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知的創造サイクル 実 施 す べ き 知 的 財 産 保 護 の た め の 業 務

「創造」の段階

 知的財産戦略の策定
 各種調査(他社動向調査、侵害予防調査)
 発明の発掘
 発明説明書の作成
 権利網構築計画の策定
「保護」の段階  各種調査(侵害予防調査、先行技術調査)
 鑑定(特許性)
 特許出願、実用新案登録出願、意匠登録出願
 上記出願の中間処理、拒絶査定不服審判の請求、その他の手続
 先使用権を主張するための書類の準備
 権利網の整理
 特許異議の申立て
「活用」の段階  ライセンス契約
 鑑定(抵触性)
 各種調査(有効性調査、無効調査)
 訂正請求、訂正審判の請求
 無効審判の請求
 紛争解決(交渉、ADR、訴訟)
 輸入差止
「その他」  外国関連業務
 社内啓蒙
 社内教育

 知的創造サイクル「創造」の段階

知的財産戦略の策定

 事業化する製品やサービスを特許権や意匠権で護るための大まかな方針――それが知的財産戦略です。

 つまり何によって他社との差別化を図ろうとしているのか、そのためにどのような手段(技術的思想、デザインコンセプトなど)の採用が可能なのか。

 これを文章で明確に定義します。

 短文で表現して、関係者全員に周知徹底することが肝要です。


他社動向調査

 特許文献や意匠文献などを調査ソースとして、競合他社、出願状況、権利網の構築状態などを調べます。


侵害予防調査

 開発を企画している製品やサービスについて、利用したり抵触したりする特許や登録意匠がないかどうかを調べます。

 後述する「保護」段階での侵害予防調査に比べて、対象が曖昧な分、比較的ざっくりした調査内容になります。


発明の発掘

 技術開発の成果から、発明を見出す作業です。
 この際、自社が開発した技術、つまり他社との差別化を実現させる手段について権利化しなければ、意味がありません。したがって知的財産戦略に沿った発明を発掘することになります。
 技術開発の流れの中で、真に権利化すべき発明を見出すこと――それが発明の発掘です。


発明説明書の作成

 発明説明書は、技術者が開発した技術はどのような技術なのか、換言すると発明者がした発明はどのような発明なのかを特定する上で、重要な書類です。
 発明説明書には、知的財産戦略に沿った発明を正確に記述します。

 発明説明書は、発明者が作成するのが一般的です。


権利網構築計画

 知的財産戦略を、特許や意匠の権利網という形態で具現化するための戦術――それが権利網です。

 特許出願や意匠登録出願などの青写真となります。



 知的創造サイクル「保護」の段階

侵害予防調査

 将来市場に投入しようとする製品やサービスについて、利用したり抵触したりする特許や登録意匠がないかどうかを調べます。

 前述した「創造」段階での侵害予防調査に比べて、対象が絞られている分、より精緻な調査内容になります。


先行技術調査

先行意匠調査

 出願しようとする発明や意匠について、先行技術/先行意匠の有無を調べます。
 特許・登録の可能性を占う上で、重要な調査です。


鑑定(特許性)

 調べ上げた先行技術、先行意匠に基づいて、出願しようとする発明や意匠の特許登録性を判断する業務です。

 特許・登録の可能性を占う上で、重要な業務です。


出願

・中間処理

・拒絶査定不服審判

 権利網構築計画で策定した発明、考案、意匠について、特許出願、実用新案登録出願、意匠登録出願をします。

 出願後、拒絶理由が通知されたときには中間処理(意見書、手続補正書)で対処し、拒絶査定となってしまったときには拒絶査定不服審判を請求します。

 これらの手続に際しては、知的財産戦略に沿った内容となるよう、留意しなければなりません。


先使用権を主張する

ための書類の準備

 開発した技術をノウハウとして秘匿したい場合があります。

 特許出願をすると出願から1年6ヶ月後に内容が公開されてしまいますので(出願公開)、技術を秘匿したい場合には特許出願をすることができません。

 ただそうすると、他社が同じ技術について特許出願し、特許を取ってしまう可能性があります。そうなると自社開発した技術であるにもかかわらず、実施することができなくなってしまいます。

 このような事態の発生を防ぐのが先使用権です。

 先使用権を主張するには、他社の特許出願前からその技術を使っていたことを立証する必要があります。

 この立証のための書類が「先使用権を主張するための書類」です。

なお意匠についても、先使用権の主張が可能です。


権利網の整理

 出願の完了後、出願内容から予想される権利網をマップなどの形態で整理しておくと便利です。

 初期の段階で将来構築されることであろう権利網を視覚化し、他社との差別化がどの程度果たされるのかを確認するわけです。
 特に特許出願の場合、中間処理の段階になると、拒絶理由を回避するために権利として請求する範囲(特許請求の範囲)を狭めざるを得ない状況が発生しがちです。

 このとき権利網を整理しておけば、どの程度まで範囲を狭めて良いのかを容易に知ることができます。



特許異議の申立て

 審査官の過誤によって不当な特許が成立する場合があります。特許異議の申立ては、いわゆる公衆審査によってこのような不当な特許を取り消す手続です。

 事業の障害になりそうな特許が成立した場合、これを事前に取り消しておけば、後々面倒な紛争になることを未然に防止することができます。 


 知的創造サイクル「活用」の段階

ライセンス契約

 知的財産に関する交渉の結果、ライセンス契約を締結する場合があります。

 あるいは権利網が有効に機能している場合、稀なことかもしれませんが、他社からライセンス契約の打診があるかもしれません。


鑑定(抵触性)

 他社が御社の権利を侵害していそうな場合……

 御社が他社の権利を侵害していそうな場合……

 ――第一にすべきことは、対象となる権利が現在も存在するかどうかを確認することです。
 ――第二にすべきことは、本当に侵害しているのかどうかを判断することです。

 これが抵触性鑑定の業務です。


有効性調査

 他社が御社の権利を侵害していそうな場合……
 ――第三にすべきことは、自社特許や意匠登録の有効性を調べることです。

 一旦権利が発生しても、特許や意匠登録そのものが無効になったり(特許庁での無効審決)、特許権や意匠権が無効と判断されたりする(裁判所での無効判断)可能性があるからです。


無効調査

 御社が他社の権利を侵害していそうな場合……

 ―― 第三にすべきことは、他社特許や意匠登録の有効性を調べることです。

 一旦権利が発生しても、特許や意匠登録そのものが無効になったり(特許庁での無効審決)、特許権や意匠権が無効と判断されたりする(裁判所での無効判断)可能性があるからです。


訂正請求

訂正審判の請求

 

 御社の権利が特許権で、他社が御社の特許権を侵害していそうな場合……

 ――第四にすべきことは、相手方との交渉です。

 交渉が成立すれば、ライセンス契約に至ることでしょう。

 しかし交渉が決裂した場合、御社は訴訟での追求を望まれるかもしれません。

 この場合、特許明細書を訂正し、相手方がしてくるであろう特許無効の主張から防御する途が与えられています。

 通常は訂正審判を請求することになりますが、相手方が御社の特許について無効審判を請求している場合には、訂正請求を行うことになります。


無効審判の請求

 御社が他社の権利を侵害していそうな場合……
 ――第四にすべきことは、相手方との交渉です。
 交渉が成立すれば、ライセンス契約に至ることでしょう。
 しかし交渉が決裂した場合、訴訟を提起されるかもしれません。
 この場合、相手方の特許や意匠登録を無効にできる可能性があります。この手続が無効審判の請求です。


紛争解決

 他社が御社の権利を侵害していそうな場合……

 御社が他社の権利を侵害していそうな場合……

◎交渉

 ――第四にすべきことは、前述したとおり、相手方との交渉です。
  交渉が成立すれば、ライセンス契約に至ることでしょう。

 しかし交渉が決裂した場合、紛争解決の手段を講じなければなりません。

◎ADR

 裁判外紛争解決手段、つまり裁判所での訴訟手続によらずに民事上のトラブルの解決を図る手続で、"Alternative Dispute Resolution" の頭文字をとってADRと言います。

◎訴訟

 裁判所で決着をつける手続です。


輸入差止

◎輸入差止の申し立て

 知的財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、育成者権)を有する者などが、税関長に対して、侵害貨物の輸入の差し止めを申し立てる制度です(関税法第69条の13)。

◎認定手続

   知的財産権を侵害すると思われる貨物について、侵害物品に該当するか否かを認定するための手続です(関税法第69条の12)。



 その他

外国関連業務

 外国で事業を展開される場合、当該国での権利取得などが必要になります。

 権利の取得を望まれる場合、当該国の弁理士など、当該国の特許庁に対して手続権能を有する現地代理人に依頼をします。

 外国に出願する場合、

 ・直接出願ルート(パリ条約上の優先権を主張するのが一般的)

 ・国際出願ルート(パリ条約上の優先権も主張可能)

の二通りの手法があります。

 いずれのルートを選択する場合でも、EPC(欧州特許条約)などの多国間条約が利用できる場合があります。


社内啓蒙

 知的財産保護の第一歩は、経営陣や事業部門などに対する社内啓蒙から始まります。
 社内啓蒙をするには、知的財産についての最低限の知識を得た上で、事業と知的財産との関係をよく理解してもらうことが肝要です。


社内教育

 事業を有効に保護するためには、技術者やデザイナーに向けて、特許や意匠の知識を伝授することが必要です。